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地域振興券というアートがあっていい

コンテンポラリーアーティスト 太湯雅晴さん  作品を見る

Photographs by Kai Kiuchi
公式サイト http://futoyu.com/

PROFILE

2006年 第24回グラフィックアート「ひとつぼ展」グランプリ、2008年 Tokyo Midtown Award 2008 アートコンペ等、数々の受賞歴に輝く。

物の価値と権威の虚構性というコンセプトをデジタルアートで表現しつづけている注目のアートアスリート。

Q.太湯さんの絵は作品を描きながら変わってきましたか?

A.手作業というのはそれだけで見た目の楽しさであるとか美しさを生み出します。時としてその見た目は表現の本質を見失わせると私は考えます。ここ数年、私はコンピューターを使用し、手作業の入り込む余地を消去したところでの表現を目指してきました。

Q.きっかけになったのは?

A.以前、私は絵の具を使って絵を描いていました。絵の具はマチエールやテクスチャを作りますが、次第に私はそれらを表現行為には不要なものと考えるようになりました。何かを描くことよりも、マチエールやテクスチャを作り出すことの方に楽しみを感じはじめていたからです。

Q.モチーフは人物へのこだわりが多いですね。

A.パブリックな肖像画というのは、それだけで権威を表すと思います。それらにはその人の細やかな性格といったものは反映されません。あくまで公的な側面を強調した肖像画には、厳かにたたずむ様だけが描かれます。
    ものの価値というのは、人が決めるのだと思います。たとえば希少価値あるダイヤモンドや金なども、単体であれば何の価値もない。それを価値があると思う人がいるからこそ、価値になります。権威も同じではないでしょうか。人がつくる権威というのもそうだと思うからそうなると思います。私の場合、紙幣に描かれる肖像画を摸して人物を線描することで、実際にはありもしない権威の虚構性を表現したいと考えています。

Q.今回のお札作品がゼロ円、しかも、ご自身がモデル、ご自身のなかにアイロニーがあるんですか?

A.現行の社会や経済システムにどっぷり漬かって生きてきた私に、それらに対する批判はありません。ただ、人々の物事に対する認識の仕方がやたらと安直で表層的であることへの苛立ちはあります。可愛い形や色遣いであるとかどうやって作ったのか分からないほどに卓越した技術で作られているだとか、見た目だけで物事を判断してそこから奥の思考へ進むことをしようとしない人々が多すぎます。確かに私の作品はある意味で卓越した技術により制作されている面を持ち合わせますが、それらは必要に応じて身につけた技術です。なので、作品のスタイルによってはそれらの技術を捨てることに何の躊躇もませんし、それが私にとっては当たり前だと考えています。
    また、技巧的な面に対する必要性というか疑念を私は常に抱き続けています。自身をモデルにすると言うのは、この技術自体に価値があると信じている人々や社会への問いかけといえるかも知れません。

Q.今後考えている作品展というのは、どういうものですか?

A.最近は創るというよりも様々な要素を組み合わせ、組み立てて行くという方向に意識が向いています。アーティストには手癖のようにひとつのものを手間暇かけて作り上げていくというタイプの人もいますが、社会との繋がりを疎かにしがちです。何を持ってアーティストとするかということは置いておくとして、アーティストも社会に属する一員であるという意識を持つならば、社会に対して積極的にコミットしていく必要があります。

DANDANS WEB (Official Web Site)
http://dandans.jp/

コミットの方法はどのようなものでも良いかも知れませんが、その意識を持った上で制作に臨まなければならないのではないかと考えています。
    今は展覧会というスタイルにこだわらず、日常のなかにいつでもアートという非日常は入り込むものだということを示すプロジェクトを考えています。たとえば、そのひとつとして、紙幣作品による地域振興券の可能性を検討しています。地域通貨は社会とコミットすることで共同体内での価値の共有が生まれます。それが実現すれば架空価値による一エリア内での価値の共有が生まれる。もし展覧会を開催するとしたら、そういったプロジェクトの成果を御見せするといった方法もありえると思います。

Q.作品についての解説をお願いします

A.制作を続ける上で考えるのが、制作費をどこから引っ張ってくるかということです。自分の財布からそれを捻出するのは簡単ですが、いずれ底は尽きてしまいますし、あまり賢いやり方とは思いません。他人の財布をあてにするというのは聞こえは悪いですが、他者の協力を仰ぐということを念頭に置いた制作を最近は意識しています。たとえば今回のトイレ内のインスタレーションに関して私自身の経費はほとんどかけていません。EPSONの協力を得て大型プリンタやインク、グラフィックのデータをプリンタに流すためのパソコン、他には蛍光インクを出力する特殊な技術などをお借りしました。後は過去に私が作品に使用した大量の用紙や大判の鏡、照明器具などを使い回しています。今回の旧フランス大使館のタイトルである「NO MAN’S LAND」とは、解体が決定しているフランス大使館旧庁舎のある土地、フランスから日本に返還される直前の誰の所有でもない無人地帯を意味します。その、国家の境界線の明確でない場所に、ゼロからの架空の価値イコール私の作品の価値を築き上げるというコンセプトの元にゼロ円にしました。子どもの反応が一番素直で分かり易いのですが、零円という字面を見て「意味ないじゃん」「価値ないじゃん」と言う子がだいたいです。
中には「こんなのいらない」と言う子までいます。子どもの場合はそれで終わりですが、大人はそこからなぜ価値のない零円なのか、紙面に描かれる人物は誰なのかと考えます。トイレの中のインスタレーションでは実際に2台の大型プリンタから紙幣のイメージが出力されていて、刷り上がったものはポスターとして持ち帰り可としました。貰えることが分かると、意味がない、価値がないと思っていたものに対する所有欲が生まれる。その、意識がすり替わる瞬間に、無価値と思っていたものが価値のあるものに替わります。この、価値のないものを如何にも価値がありそうに見せかけるところにアートの本質があるのではないかと考え、一連の過程も含め作品として提示しました。紙幣イメージについてはデータをパソコンソフトのAdobe Illustratorでつくり、インクジェットプリンタで出力しています。スカシの部分はインスタレーションでお見せした出力現場では蛍光のプリントで、キャンバスに出力した作品はスクリーン印刷にしています。角度を変えてみると分かりますが、消えて見えたり光ったりします。本当のスカシとは違いますが、別々の質感を画面に持ち込むことで作品としての効果はあるかなと思います。

Q.太湯さんが影響を受けたアーティストは?

A.紙幣のイメージを並べる連続性はアンディ・ウォーホル、社会にコミットするというか介入するやり方としてはバンクシーが面白いと思います。また、制作を続けていく上で常に頭の隅にあるのはフェリックス・ゴンザレス=トレスです。

Q.この後の活動について教えてください

A.今、インターネットで動物の画像を探しています。それらをAdobe Illustratorで描画してプリンタで出力します。作業はそれで完了です。全ての作業がパソコン上で完結することから、一連の作品群を DTP(desktop publishing)をもじってDTA(desktop animals)シリーズと命名しました。有限の生命である動物たちを無限の複製が可能なデジタルツールで描くことで、存在の可能性と限界を、ひいては表現することのそれを問いたいと考えています。それらを丸の内ビル内のH.P.FRANCE WINDOW GALLERYで2月5日から3月25日まで発表予定です。展覧会のタイトルは「Dream of the Electric Animals」です。モチーフにしているのは、羊やキリン、トラなどの、野生動物や希少動物、絶滅動物です。BLADE RUNNERという映画の世界観を多少意識しており、展覧会タイトルも映画の原作となった小説の原題「Do Androids Dream of Electric Sheep?」をもじっています。

今日はいろいろどうもありがとうございました。

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